アメリカのインディアン、カナダのイヌイット、ケニア・タンザニアのマサイ族、ニュージーランドのマオリなど、”先住民族”と聞いて、皆さんはどのようなイメージを抱きますか?
先住民族とは、国家が形成される段階より前に元々その地域で生まれ育ち暮らしている人々のことで、独特の文化や伝統を持つ集団です。近年は先住民の尊厳と文化の継承・再生が認められつつありますが、国家の形成段階において、国家の従属を強いられ奴隷化や虐殺によって弱体化を余儀なくされた例が数多く存在し、国連でも国際的な問題としてとりあげられてきました。
オーストラリアにも、「アボリジニ」と呼ばれる先住民族が存在します。
観光産業が盛んなオーストラリアでは、彼らが彼ら自身の体にほどこす色鮮やかなペイントや、壁や石などに描かれる美しい点描画のアボリジニアート、独特の楽器が奏でる音楽に注目が集まりお土産としても非常に人気です。一方で、オーストラリア現地では、アボリジニの一部の人々によるあまり良いとは言えない行動によりネガティブなイメージが与えられてしまっているのも事実としてあります。
実は、彼らの行動には、消そうとしても消しきれない深い過去の傷が関係していたのです。
今回は、違う文化を持つ人々を知り、理解するキッカケとなる”先住民族 アボリジニ”の深い歴史についてご紹介します。
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1, アボリジニとは
2, 知られざる過去の傷
3, 現在のアボリジニ
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1, アボリジニとは
アボリジニ(Aborigine)とは、ラテン語で「最初から」を意味する言葉ab origineに由来するもので、最近では「アボリジナル」や「オーストラリア先住民」と称されることが多くなっています。
ニューギニアとオーストラリアが地続きであった5万年以上前に、他地域から渡来したという説やオーストラリア自体が起源であるという説など諸説ありますが、ニューギニアと大陸が分裂してからは孤立した島国となり、独自の生活様式や文化などを築きあげてきました。
彼らは、「ドリームタイム」という天地創造の神話を語り継いでおり、この”ドリーム”は「夢」ではなく「生活する、旅をする」ことを表しています。旅をすればそこに足跡が残るように、エネルギーやスピリッツが後世に残ると考えており、「ドリーミング」という歴史の足跡を残すことを行っています。文字を持たないアボリジニは、アボリジナルアート(点描画)を通して、ドリーミングの内容を残していると言われています。
このような独特な文化や習慣を持つ人々ですが、アボリジニと偏に言ってもアナング族やジャプカイ族など26~28の部族で成り立っており、言語は絶滅寸前のオーストラリア諸語(アボリジニが使用する言語約200語の総称)を使用しています。アボリジニの言語には「ありがとう」を意味する言葉がないことは有名な話であり、英語や日本語には直訳出来ない言葉が多く存在しています。
また、アボリジニと言えば、伝統楽器や点描画が特徴的なアボリジナルアートなど、音楽やアートなど文化面でも話題にあがることが多いです。
アボリジニの音楽文化には、Didgeridoo(ディジュリドゥ)と呼ばれる伝統楽器が存在し、これを通して先祖の時代から現代迄の歴史を伝えてきました。
参照記事:『音楽好き必見!オーストラリア先住民のロックミュージック』
文化面で特徴的なことは、歴史が必ず関わっていることです。
点描画で有名なアボリジナルアートは、先述した通りドリーミングの内容を壁画として残していると言われており、芸術作品としての概念とは異なり、厳しい自然環境を生き抜くために必要不可欠なもの(砂漠や水、食べ物等)のありかを表していると言い伝えられています。
このようにアボリジニの文化には、『歴史を伝承する』という重要な目的があり、残された歴史の中には目を背けたくなるような事実も隠されていました。
2, 知られざる過去の傷
オーストラリアの歴史に深い関わりのあるアボリジニが、なぜ今のような暴力的な存在になってしまったのか?
その理由は、過去の歴史に隠されていました。
現在26~28の部族で成り立っているアボリジニは、過去には700以上の部族が存在していました。
しかし、イギリスの植民地化した頃よりアボリジニ狩りがはじまり、様々な方法で虐殺や収容を繰り返し、ついにはアボリジニの人口が90%以上減少するという事態にまで至りました。
その後、白豪主義はより勢力を増し、移民の制限及びアボリジニの弾圧に力を入れ、アボリジニの文化や存在を絶滅させていく動きを進める形となりました。そして、アボリジニは人間としての権利を全て奪われていったのです。
近年の多文化主義を重んじる現在のオーストラリアからは考えられない他文化の排除に驚きを覚えるかもしれませんが、当時は統一主義(白豪主義)が主流であり、皆同じであることが正しいと誰もが信じていたのです。
オーストラリアの歴史の起源であるアボリジニが、入植者によりその存在を迫害され、非道な扱いを受けてきたという過去が、今のアボリジニの一部の人々に悪影響を与え続けてしまっていると言われております。
3, 現在のアボリジニ
非道な扱いを受けてきたアボリジニが、なぜ平等に扱われる今を手に入れられたのか?
彼らは白豪主義に耐え続け、ついには市民権を認められるようになります。
2008年には、当時の首相より公式に謝罪が行われ、教育・医療などにおける格差是正への取り組みが始まりました。製造業やサービス業、公務員となる等、アボリジニにも平等に仕事をする権利が与えられた他、医療保険や福祉においても同等のサービスを受けられるようになり、徐々に白豪主義が終焉を迎えたのです。
しかし、アボリジニの聖地であるウルルや約4万年も守り続けてきたパヌルル国立公園さえも観光産業に使用され、彼らは聖地から追いやられることとなります。観光大国オーストラリアにとって、アボリジニの聖地はなくてはならない観光スポットである為、国がアボリジニを保護し教育や医療は平等に与えられたものの、大切な場所を奪われた傷は今もなお残っています。
皆さんは、自分の大切な家族を奪われ、言葉や慣習を否定され、居住地などの大切な場所さえ国に奪われ、違い(個性)を認められないとしたら、どのような気持ちを抱きますか?
私は、想像も出来ません。
私達が想像もし得ないことをアボリジニ達は経験してきているのです。
最後に、現地で知られるネガティブな情報も実際におきている現実ではありますが、アボリジニが経験した様々な出来事によってオーストラリアの医療に貢献したという事例もあります。
オーストラリアでは、ペニシリンが世に出るまでアボリジニが栽培していたTEA TREE(Melaeuca Alternifolia)という薬草を医療で使用していたと言われています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
オーストラリアが特別にこのような歴史があるわけではありません。私達が学校の授業で習わないような歴史は世界中に溢れており、平和な日本では信じられないことですが、近年でも続いています。
海外留学では、各国・各地域にある文化や風習、伝統に触れる機会があり、日本にいるだけでは考えることのなかった“違い”を深く考えるきっかけが散りばめられています。
そして、”違い”に触れ、考え、調べ、知ることにより、本当の意味で異文化理解が出来るようになります。
皆さんも、留学を通して、日本とは違う文化について考える体験をしてみてはいかがでしょうか。
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