ニューヨークの治安を改善した日本人デザイナー宇田川氏から学ぶ「デザインのチカラ」

齋藤慎之介
この記事は私が書きました。

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ニューヨークの治安を改善した日本人デザイナーから学ぶデザインのチカラ
アメリカ留学 News

今から30年前のニューヨークは、不況と犯罪にまみれ今では想像がつかないほど治安の悪い場所でした。
24時間休むことなく稼働するニューヨークの地下鉄は頻繁に犯罪の現場となり、窃盗や強姦、殺人事件など数々の犯罪が起こりました。車両の外や中は落書きで埋め尽くされ、車内にはゴミや汚れた衣類などが散らかっていました。

ニューヨークの地下鉄を運営するMTAは、最も犯罪が起こりやすい時間に警察を車内に配置したりして犯罪の減少に努めましたが、乗客は地下鉄に乗ることさえも恐れていたようです。

今でも、ニューヨークの地下鉄といえば、落書きまみれの車両が頭に浮かぶ人も多いのではないでしょうか。

 

ニューヨークの地下鉄を救ったのは日本人デザイナーだった

宇田川信学さん

Masamichi Udagawa and Sigi Moeslinger via Knoll Inc

評判がどん底まで落ちたニューヨークの地下鉄を蘇らせ、犯罪数の激減に貢献したのは、ひとりの日本人のデザイナーでした。

彼の名前は宇田川信学(うだがわ まさみち)。ニューヨークのチェルシーにAntenna Designという事務所を構え、オフィス家具や公共エリアの空間デザインなど、幅広い分野にわたって活躍されています。
そして2000年にニューヨーク市が新しい車両のデザインを探していたところ、川崎重工のR143という車両が入札されることになりました。この車両のデザインこそ、実は宇田川さんのデザインだったのです。

 

宇田川式空間デザインがやったこと

New_York_Subway

地下鉄のデザインがニューヨークでの体験を構成し、都市全体の印象を大きく変えることを知っていた宇田川さんは、早朝から深夜まであらゆる時間帯に自ら地下鉄に乗り込み、まずは徹底的に車両のデザインや人々の行動を分析することからはじめたそうです。

 

「物の形や機能には意味があり、人々はその意味を受け取って行動を起こす。それは無意識だったり、時には犯罪に結びつくこともある。つまりデザインによって『してほしい行動』に人々を導いたり、『してほしくない行動』を防ぐこともできると思っています」

出典:05_工業デザイナー宇田川信学 — HEAPS Creative Inspiring

 

宇田川さんが意識したのは、車内のデザインをより洗練させて使いやすいものにする他に、デザインで犯罪の数を減らすこと

以前よりも明るい車内になるように内観の色調を意識し、落書きされても消えやすいステンレス素材に傷を目立ちにくくする効果のある細かい粒子を混ぜた素材を壁材に利用しました。床には汚れを目立ちにくくするために、暗めでグロスのきいたゴム素材を選択。ドア付近の座席には、窃盗防止のために防護バーを設置しました。

ニューヨークの治安を改善させたデザイン_椅子

宇田川さんが行ったこと

  • 明るい車両になるように車内の色調を意識
  • 汚れの目立ちにくい、暗めでグロスの効いたゴム素材を床材に利用
  • ドア横には窃盗防止の防護バーを設置
  • 落書きされても消えやすいステンレス素材を車両に利用
  • 傷が目立ちにくいように細かい粒子を混ぜた
  • 乗客の座席は直接壁に設置することで床を掃除しやすくした
  • 乗客の安全を確保するためにセキュリティスクリーンを設置
  • ドアを広く取ることによって、乗り降りの循環効率をあげた
  • 車いす用のスペースをとった

 

これにより、ニューヨークの地下鉄における犯罪数は激減し、落書きの数もほとんどなくなって乗客がより安全に移動できる地下鉄が実現しました。

ニューヨークの治安を改善させたデザイン

また、宇田川さんはメトロカードや切符の券売機もデザインしています。

ユーザーの使い勝手を最優先して、英語を話せない人でも購入できるよう複数言語を選択できるようにし、最短時間で迷うこと無く購入へ導くシステムを構築。
ここでもセラミック素材でコーティングされたステンレスをボディに導入し、傷つきにくく落書きもすぐに落とせるように仕上げられました。2005年には、緊急時に係員へ知らせるためのインターコムもデザイン。今ではニューヨークの地下鉄ホームの至る所に設置されており、市民と観光客の安全を守っています。

ひとりの日本人デザイナーが手がけた地下鉄の空間デザインが、ニューヨークの治安を劇的に改善したのです。

 

おわりに:デザインがもたらす力とは?

ニューヨークの治安を改善した日本人デザイナー

この例からわかるのは、デザインが世の中に及ぼす影響の大きさ。地下鉄それ自体は、同じ場所にあって、同じ機能を果たすのに、車両のデザインが違うだけで人々の行動や心理を劇的に変化させてしまうのです。

1日に550万人の利用者がいるニューヨークの地下鉄ですが、宇田川さんのデザインにはそれだけの数の人々の安全を守り、誰もが快適だと思える空間を作り上げてしまう力があったのです。

「デザインとは、何か?」

この問いに対する答えは、今ますます多様化してきており、本当に洗練されたデザインとはいったい何なのか曖昧になっています。特に、素人とプロの境界もぼやけてきており、デザイナーという役職も頻繁に目の当たりにするようになりました。

では、なぜ宇田川さんのデザインがニューヨークの治安を劇的に変えるまでに至ったのか。その答えは「利用者とのコミュニケーション」なのではないでしょうか。

彼は徹底的に利用者の目線で地下鉄をリサーチし、「ニューヨークの治安をデザインで解決する」という明確な目的がありました。利用者にはどんな要望があるのか、どこに不満を感じているのか、何を改善すれば治安が良くなるのか。
利用者が抱いている問題に寄り添って、その解決を手伝ってあげるような感覚でものを生み出していくことこそ、本当のデザインなのかもしれません。

NEWYORK_subway

via Alejandro Castro

今日もニューヨークでは、1人の日本人デザイナーの力強い想いのこもった車両が、休むことなく乗客の足となって走っています。

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